【1309号】BOY&BOYISH 4 「海老楽ブランド」誕生」 令和080922
BOY&BOYISH 4
「海老楽ブランド」誕生
彩花の「衣裳ではなく、街の服をつくろう」という提案から始まった地元アパレルメーカーとの共同企画は、想像以上の広がりを見せました。
最初はBOY&BOYISH 4が着るカジュアルウェアを作るだけの予定でした。
ところが、地元メーカーの縫製技術とデザイナーたちの発想が組み合わさるにつれて、企画は大きく変わっていきます。
「これ、四人だけに着せるのはもったいなくないですか?」
若手デザイナーの一言が、新しい扉を開きました。
子どもから高齢者まで
メーカーの会議室には、何十着もの試作品が並びました。
鮮やかなイエローのパーカー。
やわらかなブルーのジャケット。
軽量素材のワイドパンツ。
春らしいピンクのカーディガン。
動きやすいデニム。
落ち着いた色合いのシャツ。
しかし、どれも「若者専用」ではありません。
子ども用には、走ったり遊んだりしやすい伸縮素材。
学生向けには、通学にも街歩きにも使えるカジュアルスタイル。
働く世代には、仕事帰りにも使えるジャケットやパンツ。
高齢者向けには、軽くて着脱しやすく、腕や脚を動かしやすい服。
それでいて、
「福祉用品っぽく見せない」
ことが大切にされました。
デザイナーは言います。
「着やすい服と、おしゃれな服を別物にしたくないんです」
リンは思わず、
「それ、すごくいいですね」
と答えました。
明るさを我慢しない
高齢者向けの試作品を見た陽太が気づきます。
「結構、色が明るいですね」
メーカーの担当者は笑いました。
「高齢者向けだから茶色や灰色、という決まりはないでしょう?」
テーブルには、
オレンジ。
若草色。
空色。
ワインレッド。
淡い紫。
明るい色の服が並んでいました。
彩花がうなずきます。
「年齢で色まで決める必要はないわよね」
隣では、80代の地域住民が鮮やかな青いブルゾンを試着していました。
鏡を見ながら、
「これ、若すぎないかね?」
と笑います。
悠真が即答しました。
「似合ってます。むしろその色がいいです」
男性はもう一度鏡を見て、
「じゃあ、これにするか」
と笑いました。
子どもたちもデザインに参加
さらに企画では、地域の小学生にも意見を聞きました。
「どんな服を着たい?」
というアンケートを行うと、
「ポケットがいっぱいある服」
「走りやすい服」
「雨の日でも着られる服」
「黄色!」
「宇宙みたいな服!」
自由な回答が集まります。
カイルは、その回答を見ながら笑いました。
「大人より発想が自由だな」
その中から、
大きなポケットを備えたキッズジャケット
が本当に商品化されました。
ポケットの裏地には、子どもたちが描いた海老楽市の風景をモチーフにした柄が使われました。
「EBIRAKU」という名前
ブランド名を決める会議。
候補は何十個もありました。
しかし最後に残ったのは、もっとも単純な名前でした。
EBIRAKU
海老楽。
自分たちの街の名前です。
彩花。
「変に飾らなくていいと思う」
リン。
「どこで作った服か、一発で分かりますしね」
カイル。
「海外に持っていってもブランド名っぽい」
蓮。
「それ狙ってません?」
「少しだけ」
またカイルでした。
ブランドの考え方
EBIRAKUには、一つの決まりが作られました。
年齢で、服を決めない。
子どもだから子どもっぽい服。
高齢者だから地味な服。
男性だからパンツ。
女性だからスカート。
そうした分類を、できるだけ減らす。
必要なのは、
サイズ、動きやすさ、着心地、本人の好み。
それだけ。
リンが笑います。
「なんか、俺たちのユニットそのものですね」
陽太。
「確かに」
海老楽ブランド発表会
ブランドのお披露目は、普通のファッションショーにはしませんでした。
会場は商店街中央広場。
モデルもプロだけではありません。
幼稚園児。
小学生。
大学生。
商店主。
会社員。
子育て中の親。
70代、80代の住民。
そしてBOY&BOYISH 4。
年齢も体格も違う人たちが、順番に歩きます。
ランウェイではなく、街路
特別な長いステージもありません。
商店街そのものを歩きます。
八百屋の前。
パン屋の前。
喫茶店の前。
観客との距離はほんの数メートル。
高齢の女性が赤いジャケットを着て歩くと、大きな拍手。
小学生がカーゴパンツ姿で駆けると笑い声。
親子三世代が色違いのカーディガンで並びます。
そして最後にBOY&BOYISH 4。
今回は四人とも、それぞれ違う服です。
陽太はライトジャケットとパンツ。
リンは鮮やかなロングシャツとワイドパンツ。
蓮はワークジャケット。
悠真はショートブルゾンとプリーツスカート。
統一されていない。
でも、不思議と一つのブランドに見えました。
商店街のおばあちゃん
イベント後。
いつも地域活動を見守っている商店街の女性が、リンのところへ来ました。
彼女は明るいオレンジ色のカーディガンを着ていました。
「これね、孫に似合うって言われたの」
リン。
「本当に似合ってますよ」
女性はうれしそうに袖を見ます。
「最近、服なんて何でもいいと思ってたけどね」
少し間を置いて、
「新しい服を着ると、出かけたくなるね」
リンは、その言葉を聞いて何も言わずに笑いました。
彩花が気づいたこと
その夜。
彩花はイベント写真を整理していました。
子ども。
学生。
高齢者。
みんなが同じブランドを着ています。
けれど、誰一人同じ格好ではありません。
彩花はブログに書きました。
「服が、人を街へ連れ出す」
おしゃれは、若い人だけのものではありません。
動きやすさも、年齢だけで決めるものではありません。
好きな服を着る。
少し外へ出てみる。
誰かと会う。
そこから会話が生まれる。
服は、それだけで地域を変えることはできません。
でも、人が外へ出るきっかけにはなれるかもしれません。
地域福祉へつながる服
海老楽ブランドは単なる地域商品ではなくなっていきました。
高齢者施設からは、
「着脱しやすいけれど、施設着に見えない服を作れませんか」
子育て世帯からは、
「親子で着られるデザインが欲しい」
障害のある人からは、
「片手でも留めやすい服が欲しい」
という声が届き始めます。
メーカーとデザイナーは一つずつ聞き取りました。
マグネット式の留め具。
大きめのファスナー。
伸縮性の高い素材。
座った姿勢でも形が崩れにくいパンツ。
しかし見た目は、普通にスタイリッシュ。
機能を隠すのではなく、デザインの中へ自然に溶け込ませる。
それがEBIRAKUの特徴になりました。
海老楽ブランドが生んだもの
新しい仕事も生まれます。
縫製工場の受注が増える。
若手デザイナーが地元で仕事を続けられる。
商店街に取扱店ができる。
大学生がインターンとして参加する。
高齢者や子育て世代が商品開発モニターになる。
BOY&BOYISH 4が始めた衣裳企画は、
いつの間にか、
地域産業、雇用、福祉、世代間交流をつなぐプロジェクト
になっていました。
カイルの一言
ある日、カイルが新しいEBIRAKUのカタログを見ながら言いました。
「最初は衣裳の話だったんだけどな」
彩花。
「そうね」
リン。
「だいぶ大きくなりましたね」
陽太。
「いつものことじゃない?」
全員が笑いました。
そしてカタログの最終ページには、こんな言葉が載りました。
EBIRAKU
子どもも。
若者も。
大人も。
高齢者も。
好きな色を着る。
好きな形を選ぶ。
そして、街へ出る。
服から、人へ。
人から、地域へ。
海老楽ブランドは、
誰かを特別扱いするための服ではなく、
誰もが自然に街へ出られる服
として歩き始めました。






