【1320号】BOY&BOYISH 4 「信じているから、折れなかった」 令和080923
BOY&BOYISH 4
「信じているから、折れなかった」
それは、何の前触れもなく始まりました。
ある日の夜。
BOY&BOYISH 4の公式アカウントではなく、リン個人に向けて、X上に悪意のある投稿が現れました。
最初は一件。
しかし数時間後には、似たような内容の投稿が増えました。
服装への嘲笑。
過去をねじ曲げた書き込み。
「地域活動は偽善だ」
「テレビに出て調子に乗っている」
といった根拠のない中傷。
そして何より悪質だったのは、
リンが中学時代にいじめられていたことを知っているような書き方
でした。
「……これ、昔のこと知ってる人だ」
彩花はスマートフォンの画面を見て、表情を変えました。
陽太も横から確認します。
「確かに」
悠真。
「誰なんですか、これ」
リンはしばらく画面を見ていました。
しかし、スマートフォンを机へ置きます。
「分からない」
彩花。
「リン、大丈夫?」
リンは少しだけ笑いました。
「大丈夫」
悠真。
「でも……」
「昔なら、かなり引きずってたと思う」
リンは部室を見回しました。
陽太。
彩花。
カイル。
蓮。
悠真。
翔太。
加代。
そして、自分たちを応援してくれる地域の人たち。
「今は、俺のことを知ってる人がたくさんいるから」
「俺は、こっちを信じる」
翌日も中傷は続きました。
しかしリンは反論しませんでした。
相手を煽り返さない。
スクリーンショットを保存する。
彩花が記録を整理する。
大学にも報告。
必要に応じて警察へ相談できるよう、証拠をまとめます。
カイルが言いました。
「反論投稿を出す?」
リンは首を振ります。
「今はいい」
「なんで?」
「知らない誰かの言葉より、俺は知ってる人を信じるから」
陽太が静かにうなずきました。
悠真の怒り
一番怒っていたのは悠真でした。
「リン先輩が何したっていうんですか」
蓮。
「悠真、落ち着け」
「分かってる。でも腹立つ」
リン。
「怒ってくれるのはうれしいよ」
悠真。
「俺、本当にこういうの嫌です」
リンは笑って、
「じゃあ、俺の代わりに普通に活動して」
と言いました。
「え?」
「俺がこれで活動やめたら、相手の思うつぼじゃん」
悠真は少し黙って、
「……分かりました」
と答えました。
東高校新聞部にも伝わる
数日後。
県立東高校新聞部の山下慎一郎、川野忠、若野美佐子が海老楽大学へ取材に来ました。
慎一郎はリンの表情を見て、すぐに気づきます。
「何かありました?」
リン。
「ちょっとね」
事情を聞いた慎一郎は、顔を曇らせました。
「ひどいですね」
忠。
「写真とか勝手に使われてないですか?」
美佐子。
「記事にも影響出そう?」
彩花。
「今のところ活動には出てない」
そこで慎一郎が思い出しました。
「若葉先輩に相談してみませんか」
若葉良輔
県立東高校新聞部。
若葉良輔。
記事とレイアウトを担当し、パソコン作業に非常に強い先輩でした。資料でも、新聞部の紙面を刷新できるほどのPC技術を持つ人物として描かれています。
しかも若葉は、
山下慎一郎の親しい先輩であり、BOY&BOYISH 4のファン
でもありました。
慎一郎が連絡すると、
「分かった。でも勝手に相手を追い回すのは駄目だよ」
と最初に釘を刺しました。
「やるなら、公開情報と記録の整理まで。特定や処分は警察に任せる」
慎一郎。
「はい」
「この人、癖があります」
若葉が見たのは、
IPアドレスでも、
不正侵入でも、
裏技でもありません。
すべて、
公開されている投稿の特徴
でした。
文章の癖。
句読点の使い方。
特定の言葉遣い。
投稿する時間帯。
昔のリンしか知らない出来事への言及。
過去に削除された投稿の引用記録。
公開プロフィール同士のつながり。
若葉は一つずつ整理していきました。
数日後。
若葉は慎一郎へ言いました。
「かなり特徴が一致する人物がいる」
慎一郎。
「誰ですか」
若葉。
「でも、ここから先は俺たちが断定しちゃ駄目」
その資料は大学と警察へ提出されました。
捜査
警察は正式な手続きで調査を開始しました。
保存された投稿記録。
アカウント情報。
サービス事業者への照会。
端末や通信記録。
そして関係者への聞き取り。
若葉が整理した資料は、
捜査の入口
として役立ちました。
やがて、リンの中学時代とつながる人物が浮上します。
リンが名前を聞いた瞬間。
表情が止まりました。
「……知ってる」
陽太。
「昔の?」
リン。
「うん」
かつてリンをいじめた人物
その人物は、
リンが中学時代に苦しめられた相手の一人でした。
そして驚くべきことに、
現在は海老楽大学に在籍していた学生でした。
大学内でリンの活動が注目されるようになり、
テレビ。
地域イベント。
BOY&BOYISH 4。
それを見るうちに、昔の感情を再びこじらせていった。
捜査によって、執拗な中傷投稿との関係を裏付ける証拠が確認されました。
そして最終的に、
名誉毀損や侮辱などに関する容疑で警察の捜査対象となり、逮捕に至りました。
リンの反応
逮捕の知らせを聞いても、
リンは喜びませんでした。
悠真。
「リン先輩」
リン。
「何?」
「……ざまあみろって思わないんですか」
リンは少し考えました。
「思わないな」
「なんで?」
「昔の俺なら思ったかもしれない」
少し間を置きます。
「でも今は、あの人の人生より、自分の人生のほうが大事だから」
悠真は黙りました。
慎一郎との会話
その日の夕方。
慎一郎がリンのところへ来ました。
「大丈夫ですか」
リン。
「うん」
「本当に?」
リンは笑いました。
「慎一郎、取材じゃない顔してるね」
「友達として聞いてます」
リン。
「じゃあ友達として答える。大丈夫」
慎一郎は少し安心しました。
リン。
「若葉先輩にもありがとうって伝えて」
慎一郎。
「はい」
「でも、若葉先輩が犯人を捕まえたわけじゃないからね」
リン。
「分かってる」
「警察につなげる材料を整理してくれたんだよね」
「はい」
大学、再び説明へ
問題はそこで終わりませんでした。
逮捕された人物が海老楽大学の学生だったため、
大学は再び記者会見と説明対応を行うことになります。
以前の飲酒絡みの不祥事から、それほど時間が経っていません。
学内では、
「また海老楽大学か」
という空気を心配する声も出ました。
しかし今回は、以前とは状況が違いました。
地域の反応
商店街では、
「リン君、大丈夫?」
という声が先に上がりました。
小学校関係者からも、
「活動は無理しないでください」
中学校バスケット部からは、
「また来てください」
地域イベントの主催者からも、
「予定通りお願いします」
という連絡が入りました。
活動キャンセルは、ほとんどありませんでした。
彩花はその様子を見て言います。
「大学の不祥事と、地域活動部は分けて見てもらえてる」
陽太。
「今まで積み上げたものがあるからだろうな」
影響が軽微だった理由
大学全体としては大きな問題でした。
しかしBOY&BOYISH 4や地域活動部への影響は、以前よりはるかに小さく済みました。
理由は単純でした。
地域の人たちは、
もう彼らを
「海老楽大学の学生という肩書きだけ」
では見ていなかったのです。
陽太。
リン。
蓮。
悠真。
彩花。
カイル。
翔太。
加代。
それぞれを一人の人間として知っている。
何をしてきたのかも知っている。
若葉良輔、地域活動部へ
数日後。
若葉が慎一郎と一緒に地域活動部へやって来ました。
リンは立ち上がりました。
「若葉さん?」
「初めまして」
「ありがとうございました」
リンが頭を下げようとすると、
若葉が慌てて止めます。
「いやいや。俺は整理しただけです」
慎一郎。
「若葉先輩、かなり頑張ってましたけど」
若葉。
「余計なこと言うな」
リンは笑いました。
「でも、本当に助かりました」
若葉。
「ファンとして当然です」
リン。
「え?」
慎一郎。
「言ってなかったですか?」
若葉。
「山下!」
部室が一気に笑いに包まれました。
リンが折れなかった理由
後日。
彩花がリンへ聞きました。
「今回、よく平気だったね」
リン。
「平気じゃなかったよ」
彩花。
「え?」
「普通に嫌だったし、怖かった」
「じゃあ、なんで活動続けられたの?」
リンは答えました。
「一人じゃないって知ってたから」
陽太がいる。
慎一郎がいる。
悠真がいる。
地域活動部がいる。
東高校新聞部がいる。
地域の人たちがいる。
そして、自分を信じてくれる人たちがいる。
「昔は、いじめてくる人の言葉が世界の全部みたいに見えた」
リンは静かに言いました。
「今は違う」
画面の向こうより、目の前の人
その日の夕方。
BOY&BOYISH 4は商店街イベントへ向かいました。
いつものように、
「リン君!」
と子どもが手を振ります。
高齢の店主が、
「元気だったか」
と声をかけます。
リンは笑って答えました。
「はい」
SNSには、知らない誰かの言葉があります。
でも目の前には、
自分を知っている人たちがいます。
リンは、そちらを選びました。
彩花の記事
その夜。
彩花は短い文章だけを投稿しました。
「信頼は、画面の外にある」
誹謗中傷は、人を傷つけます。
でも、誰かの悪意が、その人の価値を決めるわけではありません。
私たちはこれからも、
顔を合わせ、
話を聞き、
一緒に活動し、
信頼を積み重ねます。
それが、私たちの答えです。
リンはその記事を読んで、
スマートフォンを閉じました。
そして翌朝。
いつも通り地域活動部へ向かいました。
かつてリンを傷つけた人物は、
再び過去から追いかけてきました。
しかし今度は、
リンの周囲には、一緒に振り返ってくれる仲間がいました。
だからリンは、
過去へ戻る必要がありませんでした。
前だけを向いて、
また地域へ歩いていったのでした。
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