【1254号】BOY&BOYISH設定 令和080915
中学時代のリン
「名前を呼んでくれた人」
林 明が、まだ「リン」と呼ばれる前の話です。
中学生のころの明は、今よりずっと静かな少年でした。
顔立ちは昔から整っていましたが、それを本人は長所とは思っていませんでした。むしろ、少し柔らかい雰囲気や、周囲と違うところを目立たせないようにしていました。
休み時間も、なるべく教室の端にいる。
体育の着替えも早く済ませる。
誰かに何か言われても、聞こえないふりをする。
そんな毎日でした。
いじめが始まった理由
最初は、ほんの軽いからかいでした。
「女みたいな顔」
「声、細いよな」
「なんか変わってる」
言った側にとっては、たぶん深い意味などなかったのでしょう。
でも、それが何度も続くと、明にとっては学校そのものが息苦しい場所になっていきました。
机を少しずらされる。
体育の班で最後まで残される。
持ち物を隠される。
笑われる。
明は先生にも家族にも言いませんでした。
言えばもっと面倒になると思っていたからです。
佐藤陽太
そんな明の隣にいたのが、佐藤陽太でした。
陽太は昔から口数が少ない少年でした。
ただし、人をよく見ていました。
ある日の放課後。
明の体育館シューズがなくなっていました。
教室には何人か残っていて、笑い声が聞こえます。
明は何も言わず、靴箱の前で探していました。
そこへ陽太が来ます。
「何探してる」
「別に」
「靴?」
明は答えません。
陽太はそのまま教室へ戻りました。
しばらくして、ロッカーの上から体育館シューズを見つけます。
それを明の前に置いて、
「これだろ」
と言いました。
明は小さく、
「ありがとう」
と答えました。
それだけでした。
「やめろ」
数日後。
廊下で、明が数人に囲まれていました。
また顔立ちのことをからかわれていました。
明は黙って通り過ぎようとします。
そのとき陽太が間に入りました。
大声ではありません。
ただ、
「やめろ」
と一言。
相手は笑いました。
「なんだよ、佐藤。かばってんの?」
陽太はもう一度、
「面白くないから、やめろ」
と言いました。
それだけでした。
喧嘩にもなりませんでした。
でも、その日を境に、明へのからかいは少しずつ減っていきます。
初めて一緒に帰った日
帰り道。
明が陽太に聞きました。
「なんで助けたの?」
陽太はしばらく考えて、
「嫌そうだったから」
と答えました。
「それだけ?」
「それ以外いる?」
明は笑いました。
中学に入ってから、誰かの前で自然に笑ったのは、そのときが初めてでした。
その日から、二人はよく一緒に帰るようになります。
陽太は何も決めつけなかった
陽太は明に、
「もっと男らしくしろ」
とも、
「気にするな」
とも言いませんでした。
明の顔立ちについても、声についても、何も評価しません。
ただ普通に話しました。
音楽の話。
ゲームの話。
学校が面倒だという話。
将来どこへ行きたいかという話。
明にとって、それが救いでした。
「普通に扱われること」そのものが、助けになることもある。
陽太はそれを意識せずにやっていました。
卒業の日
中学の卒業式。
明は陽太に言いました。
「高校、別になるかもしれないけど、忘れないから」
陽太は、
「大げさだな」
と笑いました。
そして、
「また会えばいいだろ」
と言いました。
二人の関係はそこで終わりませんでした。
高校時代も交流は続きます。
明はそこで留学生から「リン・ミン」と呼ばれ、それが縮まってリンというニックネームになります。
そして数年後。
二人は同じ海老楽大学に進みます。
大学で再び並ぶ
陽太がBOY。
リンがBOYISH。
スラックスとスカート。
踏み込みとターン。
中学時代、教室の隅で目立たないようにしていた明が、今ではステージの中央に立っています。
そして、その隣には陽太がいます。
昔と同じように。
ただひとつ違うのは、
今のリンは、もう隠れていないことです。
「あのとき陽太が普通に接してくれたから、今の俺があるのかもな」
リンがそう言うと、陽太はたぶん、
「知らない」
と答えるでしょう。
でも、それが二人らしいのです。
陽太はリンを変えようとはしなかった。
ただ、リンが自分のままでいられる場所を守った。
それが、BOY&BOYISHが始まるずっと前の、二人の最初の物語でした。


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