【11号】陽太くんの物語 令和070330

 


「佐藤健一の物語:遠くの光と喫茶店の灯り」

第3章:再生の影(2021年~2025年)

2021年、青葉市の春は桜が静かに咲いてた。俺、佐藤健一は46歳で、市役所の休憩室で新聞を手に震えた。「医療ミス裁判で若者が勝利、医学部へ」と見出しが踊ってた。佐藤陽太。俺の息子だ。記事には、陽太が藪田って医者を告訴して正義を勝ち取ったこと、1年の猛勉強で星翔大学医学部に合格したことが書いてあった。写真には、陽太の切れ長の目と穏やかな笑顔。俺に似てるって、美紀が昔言ってたその目が、力強く輝いてた。

同僚が「佐藤、あの医学生ってまさか…?」と聞いてきた時、俺は小さく頷いて、「息子だ」と呟いた。胸が熱くなって、新聞を握り潰しそうになった。陽太、あんな苦しみを乗り越えて、医者になるなんて。俺は立ち上がって、トイレの個室に駆け込んだ。鏡の前で涙が溢れて、「陽太、頑張ったな」と嗚咽が漏れた。俺には何もしてやれなかった。でも、陽太が立ち直ったなら、俺の人生も無駄じゃなかったのかもしれない。そう思ったら、涙が止まらなくて、俺は笑ってた。

2022年、陽太が20歳の夏。俺は47歳で、アパートの窓から青葉市の夕焼けを見てた。テレビをつけると、偶然「SPARKLE VIBE」のCMが流れてきた。陽太が映ってた。ダークグリーンのスポーツブリーフを着て、カメラに向かって笑う姿。傷跡を隠さずに堂々と立つ陽太を見て、俺は息を呑んだ。あの傷を、陽太は力に変えたんだ。CMが終わっても、俺はテレビを見つめて動けなかった。「陽太、お前、輝いてるよ」と呟いて、目を閉じた。

夜、ビールを手にベランダに出て、空を見上げた。星がいくつも輝いてて、その一つが陽太みたいに思えた。俺は陽太に何もしてやれなかったけど、陽太は自分で道を切り開いた。その強さに、心が温かくなった。陽太が医者を目指してるなら、俺の知らないところで誰かを救ってるんだろう。そう思うと、胸の奥に小さな灯りが点った気がした。

2025年、陽太が23歳の秋。俺は50歳で、市役所の窓から紅葉を見下ろしてた。定年まであと少し。毎日が同じ繰り返しで、心が乾いてた。そんな時、テレビでまた陽太を見た。「SPARKLE VIBE」の新しいCMだ。陽太が落ち着いた笑顔でポーズを取ってて、隣には若い男が一緒に映ってた。陽太の後輩らしい。陽太が誰かを支えてる姿に、俺は目を奪われた。「あいつ、立派になったな」と呟いて、初めて誇らしい気持ちが湧いた。

家に帰って、俺は古いアルバムを開いた。陽太が3歳の時、俺が肩車して撮った写真があった。陽太の笑顔と、俺のぎこちない笑い。美紀が「健一、似てるね」と言ったあの日の記憶が蘇って、俺はアルバムを抱きしめた。「陽太、お前のおかげだよ」と呟いたら、涙がページに落ちた。俺は陽太に会えない。でも、陽太が輝いてるなら、それでいい。そう思って、アルバムを閉じた。窓の外、紅葉が風に揺れてて、俺の心に小さな風が吹いた。

第3章の終わり

陽太の再生は、俺の知らない遠くで輝いてた。俺の手には何もなかったけど、心の奥に陽太の笑顔が灯りを点してくれた。俺は一人で生きてきたけど、陽太が医者として、モデルとして輝く姿が、俺の乾いた人生に温もりをくれた。俺はまだ知らなかった。その灯りが、俺をいつか新しい一歩へと導くなんて。


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