【47号】Grokロマンス文庫:星空の境界線:永遠の共鳴 令和070406

 


第一章:魂の目覚め


薄暗いライブハウス「Lunar Echo」の空気は、汗と熱気で重く濡れていた。古びたコンクリートの壁に観客のざわめきが反響し、ステージ上の照明がちらつくたび、埃が光の中で踊る。客席はぎゅうぎゅうに詰まり、ビールの匂いとタバコの煙が混じり合って、どこか懐かしくも危険な雰囲気を醸し出していた。


ステージ中央に立つ佐藤陽太は、20歳とは思えないほど鋭い切れ長の目を虚空に投げ、黒髪を汗で濡らしていた。細身の体にフィットした黒いTシャツは、肩から胸にかけて汗で光り、ギターのストラップがその輪郭を際立たせる。彼が弦を爪弾くと、低く掠れた音が会場を切り裂き、観客の息を一瞬止めた。「俺の心は星屑に砕けた、夜に散って灰になる」と歌い出す陽太の声は、荒々しくもどこか脆く、まるで刃のように鋭く聴く者の胸を抉った。  

最前列に立つ藤田悠斗は、18歳の高校生らしい丸顔に純粋な垂れ目を輝かせ、手にしたノートを無意識に握り潰していた。軽いウェーブのかかった黒髪が耳に掛かり、制服の上に羽織った薄いジャケットが少し大きめで、彼の華奢な体を包んでいる。陽太の歌が耳に流れ込むたび、心臓が締め付けられるような疼きが広がり、悠斗は小さく呟いた。「陽太先輩の声…僕の闇を抉るみたいだ」

ステージのスポットライトが陽太の汗ばんだ首筋を照らし、一滴の汗が鎖骨を滑り落ちて床に消える。その瞬間、悠斗の視線は陽太に釘付けになり、息を呑む。歌詞の一節一節が、悠斗の内側に眠っていた何かを揺り起こし、彼の指がペンを握る手に力が入った。「この感覚、なんだろう。怖いのに、もっと聴きたい」と心の中で呟きながら、ノートに走り書きする。「彼の声は夜を裂く。僕の魂に火をつけた」と。  



ライブが進むにつれ、陽太の歌は激しさを増した。「裏切りの刃が俺を刺し、血を流すたび歌になる」と叫ぶように歌い、ギターを掻き鳴らす。観客が拳を上げて応える中、悠斗だけは静かに立ち尽くし、陽太の姿を目に焼き付けていた。陽太の汗がステージに滴り、Tシャツが肌に張り付くたび、悠斗の胸は熱くなり、理由のわからない衝動が湧き上がる。「陽太先輩…こんな気持ち、初めてだ」と自覚しつつ、その感情に名前をつけられないまま、ただ見つめ続けた。  

ライブが終わり、陽太が最後のコードを鳴らすと、会場は拍手と歓声に包まれた。彼はギターを肩に担ぎ、無言でステージ裏へ消える。悠斗は我に返り、ノートを胸に抱えて人混みを掻き分けた。楽屋への通路は狭く、タバコの煙と汗の匂いが濃く漂う。ドアを叩く手が震え、深呼吸して声を絞り出す。「佐藤陽太さん、取材をお願いします!」

ドアが開き、陽太が現れた。煙草をくわえ、汗で濡れた髪を乱暴にかき上げる彼は、20歳の若さとは裏腹に、どこか疲れた影を瞳に宿していた。「何だ、ガキか」と笑い、煙を吐きながら悠斗を見下ろす。陽太の身長は175cmとさほど高くないが、その存在感は圧倒的で、悠斗の170cmの体が小さく感じられた。

「僕、音楽雑誌の学生ライターです。藤田悠斗って言います。陽太さんの取材をさせてください」とノートを差し出す悠斗に、陽太は目を細めた。「お前、俺の何を知りたいんだ?歌か?傷か?」と挑発的な口調で問う。悠斗は一瞬言葉に詰まり、陽太の鋭い視線に胸が締め付けられる。それでも、意を決して口を開いた。

「先輩の音楽が、僕を救ってくれたんです。学校で友達がいなくて、毎日が灰色だった。でも、陽太さんの歌を聴いたら、生きる意味が見えた。その理由を知りたいんです」と、震える声で告げる。陽太は煙草を指で摘み、悠斗の真っ直ぐな瞳を見据えた。その純粋さに一瞬たじろぎ、煙を吐きながら呟いた。「…そうか。救われたってか。なら、近くで見てろ。俺の歌も、俺自身もな」

陽太の手が悠斗の肩を叩き、その重さと熱に悠斗の体が熱くなった。「陽太先輩、この熱は一体何だ?僕、あなたに近づきたい」と心の中で叫びながら、陽太の背中を見送る。楽屋のドアが閉まり、悠斗はノートを胸に抱えたまま立ち尽くした。  

ライブハウスの外に出ると、夜空には星が瞬き、冷たい風が汗ばんだ頬を冷やした。悠斗はノートを開き、走り書きした言葉を読み返す。「彼の声は夜を裂き、僕の魂に火をつけた。この出会いは運命だ」と。陽太の歌が頭の中で反響し、胸に手を当てると、そこには初めて感じる疼きと、抑えきれない衝動が渦巻いていた。

一方、楽屋に戻った陽太は、煙草を灰皿に押し付け、鏡に映る自分を見つめた。汗で濡れた顔、疲れた目、そしてどこか虚ろな表情。「あのガキ、純粋すぎる」と呟き、悠斗の言葉を思い出す。「救われた、か。俺なんかにそんな力があるのか?」と自嘲的に笑うが、心の奥で小さな波が立つのを感じた。

陽太はギターケースを開け、弦に触れる。指先が震え、掠れた声で小さく歌い出す。「お前の瞳が俺を刺す」と。悠斗の顔が脳裏に浮かび、陽太は目を閉じた。「あいつ、俺をどうする気だ?」と呟きながら、初めて感じる動揺に戸惑う。  

その夜、悠斗は自宅のベッドに横たわり、陽太の歌をイヤホンで聴き続けた。目を閉じると、ステージ上の陽太の姿が浮かび、汗ばんだ首筋や鋭い目が脳裏に焼き付いて離れない。「陽太先輩に会えた。もっと知りたい。もっと近くにいたい」と呟き、胸の疼きが眠りを妨げる。ノートを開き、新たな一行を書き加えた。「彼の熱が僕を焦がす。この気持ちに名前はない」と。

星空の下、二人の魂はまだ知らぬまま、運命の糸で結ばれ始めていた。  


第一章のポイント

感情の深掘り: 悠斗の純粋な衝動と陽太の荒々しい脆さを丁寧に描写し、出会いの衝撃を強調。  

場面の細部: ライブハウスの熱気、陽太の汗、悠斗の震える手など、五感を刺激する描写で臨場感を増す。  

音楽の象徴性: 陽太の歌詞が二人の心をつなぐ予兆として機能し、ロマンスの基盤を築く。  


長編の布石: 陽太の過去の傷や悠斗の孤独を軽く触れ、次章への伏線を張る。


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