【1354号】BOY&BOYISH 4 外伝 「脚本家、踊る。」 令和080928
BOY&BOYISH 4 外伝
「脚本家、踊る。」
竹本翔太がその一言を口にしたとき、地域活動部の部室は数秒だけ静まり返りました。
翔太はいつもの穏やかな顔で、何でもないことのように言ったのです。
「次のイベント、僕もリン先輩のスカート制服で踊ります」
彩花。
「……今、何て?」
加代。
「翔太、もう一回言って」
翔太。
「踊ります」
カイル。
「脚本を書くんじゃなくて?」
「はい」
リン。
「俺の衣裳で?」
「同じ系統の衣裳を作ってもらいます」
陽太。
「本気なんだ」
翔太。
「言ったからには、やります」
きっかけ
発端は、BOY&BOYISH 4の新しいダンス練習でした。
翔太はいつものように取材ノートを片手に、振付の意図を聞いていました。
リンのターン。
悠真の細かなステップ。
陽太の重い踏み込み。
蓮の正確な位置取り。
それを見ながら翔太は、何度か小さく足を動かしていました。
カイルはそれに気づいていました。
「翔太」
「はい?」
「今、振付覚えてた?」
翔太。
「見てたら何となく」
リン。
「ちょっとやってみる?」
翔太は少し迷いました。
そして立ち上がります。
一回見ただけなのに
音楽。
リンが8カウントだけ踊ります。
翔太は横で見ていました。
もう一度。
今度は翔太も参加。
右。
左。
ターン。
踏み込み。
停止。
カイルの表情が変わります。
「……翔太?」
「何ですか?」
「もう一回」
三回目。
翔太の動きはまだ粗削りです。
けれど、
拍を外さない。
身体の向きが正確。
次の動きを理解するのが速い。
そして何より、
動きを覚えるだけではなく、
音楽のどこで身体を止めればきれいに見えるか
を自然に理解していました。
悠真。
「え、普通にうまくないですか?」
蓮。
「初めてですよね?」
翔太。
「ちゃんと踊るのは」
彩花。
「また才能出てきた……」
リンのスカート制服
翔太が選んだのは、
リンが象徴的に着てきた制服スタイルでした。
ネイビーのブレザー。
白シャツ。
細いタイ。
プリーツスカート。
ローファー。
もちろん藤崎レオが、翔太用に寸法を調整します。
フィッティングの日。
翔太が試着室から出てくると、
全員が振り返りました。
加代。
「……似合う」
翔太。
「そう?」
悠真。
「想像以上です」
リン。
「脚長く見えるね」
陽太。
「本人が普通すぎる」
翔太。
「服ですから」
リン。
「その感覚、俺と同じ」
鏡の前
翔太は鏡の前で一度ターンしました。
スカートがふわっと広がります。
すぐ止まる。
布の戻り方を見る。
もう一回。
今度は少し速度を変える。
カイル。
「何確認してる?」
翔太。
「どの速度だと裾の動きが一番きれいか」
全員。
「……」
彩花。
「翔太」
「はい?」
「それ、完全にダンサーの発想よ」
脚本家の強み
翔太のダンスには、少し変わった特徴がありました。
彼は振付を、
物語として覚える
のです。
翔太。
「ここはリン先輩が前へ出る」
「ここで僕が一歩遅れる」
「次の8カウントで追いつく」
「最後に同じ方向を見る」
カイル。
「なるほど」
普通なら、
右足。
左足。
ターン。
ジャンプ。
と覚えるところを、
翔太は、
「誰が何を伝えている場面なのか」
として理解していました。
脚本家らしい覚え方でした。
リンとの練習
リンが翔太の横へ。
「じゃあ一緒にやってみよう」
翔太。
「お願いします」
音楽開始。
リン。
柔らかなターン。
翔太。
少し硬めだが、正確に追う。
二人がすれ違う。
視線。
停止。
次の拍。
今度は翔太が前。
リンが後ろ。
カイルが思わず、
「いい」
と言いました。
思った以上に相性がいい
リンは曲線的。
翔太は直線的。
リンが感覚型なら、
翔太は構成型。
まったく違います。
しかし並ぶと、
その差が妙に面白い。
陽太。
「翔太、リンに合わせようとしてないな」
カイル。
「そこがいい」
蓮。
「自分の動きがありますね」
悠真。
「なんで初挑戦でそこまでできるんですか」
翔太。
「分かりません」
彩花。
「本人が一番分かってないパターン」
加代だけは少し納得
沢村加代は腕を組みながら見ていました。
彩花。
「驚かないの?」
加代。
「驚いてるよ」
「でも翔太って、高校の頃から意外と身体の使い方うまかったから」
翔太。
「そう?」
加代。
「取材で人混み抜けるとき、異常に身軽だった」
翔太。
「それはダンスじゃないよ」
加代。
「才能ってそんなところに出るのよ」
本格トレーニング開始
カイルは面白がるだけでは終わりませんでした。
「翔太」
「はい」
「本気で一曲やろう」
翔太。
「やります」
即答。
陽太。
「迷わないな」
翔太。
「言いましたから」
こうして、
竹本翔太ダンス特訓
が始まりました。
体幹
最初の課題は体幹。
ダンスの動きを長く続けると、翔太もさすがに崩れます。
リン。
「上半身が少し揺れる」
翔太。
「分かった」
次の日。
翔太は基礎トレーニングを始めました。
スクワット。
プランク。
ストレッチ。
バランス練習。
一週間後。
悠真。
「改善早すぎません?」
ターン
リンが教えます。
「回る前に顔を残す」
「最後に視線を戻す」
翔太。
「取材カメラと同じですね」
リン。
「どういうこと?」
「先に見る場所を決めておく」
リン。
「……それで覚えられるなら、それでいい」
表情
最大の問題は表情でした。
翔太は踊っている最中、
真剣すぎる。
彩花。
「怖い」
翔太。
「そんなに?」
加代。
「原稿の締切前の顔」
カイル。
「もっと楽しんで」
翔太。
「楽しんでます」
リン。
「顔にも出そう」
数日後。
音楽の途中でリンが突然笑いかけました。
翔太もつられて笑う。
カイル。
「それ!」
翔太。
「何が?」
「今の顔」
初ステージ
そして地域イベント当日。
告知には、
BOY&BOYISH 4 Special Stage
その下に小さく、
Guest Performer 竹本翔太
と書かれました。
観客の中には、
「脚本家の竹本君?」
「ドラマ書いた人だよね」
「踊るの?」
という声。
翔太は舞台袖に立っていました。
いつものノートはありません。
代わりに、
リンと同系統のプリーツスカート制服。
リン。
「緊張してる?」
翔太。
「かなり」
「珍しい」
「文章なら書き直せますから」
リン。
「ダンスは?」
翔太。
「書き直せないですね」
リン。
「だから面白いんだよ」
ステージへ
BOY&BOYISH 4の曲が始まります。
陽太。
蓮。
悠真。
リン。
そして途中から、
翔太が登場。
観客から驚きの声。
翔太は中央へ。
ターン。
一歩。
停止。
リンと交差。
陽太の横へ。
次の瞬間、5人のフォーメーション。
カイルが驚く
舞台袖。
カイル。
「練習よりいい」
彩花。
「本番型?」
加代。
「昔からそう」
カイル。
「聞いてない」
加代。
「今言った」
翔太、跳ぶ
曲の終盤。
予定していた小さなジャンプ。
着地。
ぴたり。
リンが思わず笑います。
翔太も笑う。
そのままターン。
最後は5人横一列。
音楽停止。
一瞬の静寂
そして、
大きな拍手。
翔太は少し驚いた顔をしました。
客席から、
「翔太ー!」
という声まで飛びます。
リン。
「人気出てる」
翔太。
「聞こえないことにします」
終演後
悠真。
「翔太先輩、本当に初めてなんですか?」
翔太。
「本格的には」
蓮。
「普通にメンバーに見えました」
陽太。
「ステージ強いな」
翔太。
「そんな評価になると思ってなかった」
リン。
「俺はちょっと分かってた」
翔太。
「いつから?」
「最初に一緒に踊ったとき」
若葉の分析
若葉良輔も映像を確認しました。
「竹本先輩、面白いですね」
翔太。
「何が?」
「ダンスを踊ってるというより、場面を演じてる」
カイル。
「やっぱりそこか」
若葉。
「脚本家だから、身体の動きにも起承転結がある」
彩花。
「そんなダンサーいる?」
カイル。
「今できた」
新しい才能
翔太自身は、ダンサーになるつもりはありませんでした。
脚本。
取材。
地域活動。
お好み焼きミーティング。
それらを捨てる理由もありません。
でも、
「踊るのも面白いですね」
と認めました。
リン。
「またやる?」
翔太。
「面白い脚本が思いつけば」
リン。
「踊る理由が脚本なんだ」
地域活動部のホワイトボード
数日後。
翔太の担当欄。
取材
記事
お好み焼きミーティング
脚本
そしてカイルが勝手に、
ダンス
と書き足しました。
翔太。
「消していいですか」
カイル。
「駄目」
彩花。
「永久保存」
加代。
「写真撮っとこう」
翔太。
「みんな楽しんでるでしょう」
リン。
「もちろん」
こうして竹本翔太は、
新聞部出身の地域活動家。
脚本家。
そして、
思いがけず、
ダンスまでできる人
になりました。
また一人、
海老楽大学地域活動部で、
本人も知らなかった才能が発掘されたのです。
そしてリンは、新しい衣裳を畳みながら一言。
「翔太、次は一曲最初から最後までね」
翔太は少し考え、
「分かりました」
と答えました。
有言実行の男は、
どうやら次のステージにも立つ気満々でした。




