【163号】小説版:『桜の木陰の告発』  令和070502

 

第1章:告発の手紙

2025年4月、青葉高校の校庭に桜の花びらが舞っていた。佐藤陽太(17歳、2年生)は、新聞部の部室で原稿を眺めながら欠伸を噛み殺していた。好奇心旺盛な新聞部員として、スクープを夢見る日々だ。
「陽太、寝不足? また徹夜で記事書いてたの?」親友の藤田悠斗(17歳)が部室に入ってきた。首に下げたカメラが彼のトレードマークだ。
「いや、昨日ネットで変な噂見つけてさ。野球部の藪田健司が何か隠してるって。スクープの匂いがするだろ?」陽太は目を輝かせた。
そこに、部長の山田彩花(18歳、3年生)が現れる。「陽太、噂を追いかける前に証拠集めなさい。憶測で記事書いたら、部が潰されるわ。」
昼休み、校内の掲示板に一枚の手紙が貼られているのを陽太は発見した。乱暴な筆跡でこう書かれていた。「野球部エース藪田健司は不正を隠している。正義のために告発する。」
「これ、誰が書いたんだろう? めっちゃ大胆な告発だな…。」悠斗がつぶやく。
彩花が眉を寄せた。「この筆跡、なんか変。複数人で書いたみたい。」
陽太は手紙を手に取り、詳しく調べた。学校のコピー用紙で、裏に青いインクのシミがある。手紙の文字は黒なのに、なぜ青いシミが?
悠斗がカメラで手紙を撮影し、「これ、後で筆跡分析できるかも」と提案した。
その夜、衝撃のニュースが飛び込んだ。藪田健司が校舎裏で血を流して倒れているのが発見されたのだ。警察は「転落事故」と結論づけたが、陽太の胸に疑念が広がった。「事故? そんなわけない。告発手紙と絶対繋がってる!」
陽太は決意を固めた。「俺たちで真相を暴こう。新聞部の名にかけて!」
陽太たちは校舎裏へ向かった。夕暮れの校舎裏は薄暗く、桜の木の影が不気味に揺れる。地面には警察のチョークの跡が残っていた。悠斗が草むらで何かを見つけた。「陽太、これ見て! バットだ! 先端に…血がついてる!」
彩花が冷静に言った。「凶器の可能性もあるけど、事故の破片かもしれない。警察に渡すか、まず自分たちで調べるか…。」
陽太はバットを手に取り、血痕が新しいことに気づいた。バットには指紋もあるかもしれない。
さらに、桜の木の根元で破れた学生証の欠片を見つけた。「…田…司」と書かれており、藪田のものだと確信した。「警察が見逃したか、誰かが隠したか…。」陽太は呟いた。
陽太たちは手紙の筆跡を国語教師の田中真由美に相談した。田中先生は元弁護士で、証拠の扱いに長けている。「この筆跡、確かに複数人ね。文体もバラバラ。誰かが主導して書かせた可能性が高いわ。」
田中先生の助言を受け、陽太たちは生徒のノートを集めて筆跡を比較した。3年生の女生徒、藪田の元カノの筆跡が一致した。「彼女が関わってるなら、動機は個人的な恨みかしら?」彩花が推理した。

第2章:野球部の闇

陽太たちは元カノに話を聞くことにした。校舎裏の桜の木の下で待つと、彼女は怯えた表情でやってきた。「…私が書いたのは一部だけ。誰かに脅されて…。藪田のドーピングを知ってたけど、告発する気はなかったの。」
「誰に脅された?」陽太が優しく聞くと、彼女は声を震わせた。「コーチよ。野球部のコーチに脅されて手紙を書いたの。」
彼女は涙を流し、「これ以上は関わりたくない」と去った。陽太はコーチが事件に関与している可能性を確信した。
放課後、陽太たちは野球部の部室を調べに行った。部室は汗の匂いが漂い、壁にはトロフィーが並ぶ。悠斗がロッカーの奥から透明な袋を見つけた。「陽太、これ見て! 錠剤の袋だ!」
彩花が冷静に言った。「これ、証拠になるけど、勝手に持ち出すのは危険よ。写真を撮って、誰かに相談した方がいいかも。」
そこへ、野球部のライバル部員が現れた。「お前ら、何してるんだ!?」
陽太は事情を説明した。「俺たちは藪田の事件を調べてるだけだ。手紙にドーピングのことが書いてあって…。」
ライバル部員は黙った後、言った。「…俺も藪田が怪しいと思ってた。錠剤、俺も見たことある。コーチが隠してたんだ。」
彼は協力することを約束し、部室のメモを渡してくれた。メモには「錠剤の取引先」と書かれた電話番号が。陽太たちは重要な証拠を手に入れた。
陽太たちは電話番号を調べ、近隣の薬局に繋がることを突き止めた。薬局の店員に話を聞くと、「確かに、野球部のコーチから依頼があって、特別な錠剤を渡した」と認めた。取引の記録も渡され、陽太たちは決定的な証拠を手に入れた。
さらに、部室で藪田の名前の書かれたメモを見つけた。「コーチに逆らうな。薬は飲め」と書かれており、コーチがドーピングを強制していた証拠だった。元カノにメモを見せると、彼女は涙ながらに言った。「これ、藪田が私に見せたメモだ。コーチに逆らえなくて、薬を飲んでたって…。」
陽太たちはコーチの行動を観察した。放課後、グラウンドでコーチが怪しげな電話をかける姿を目撃。「…はい、錠剤の件、バレそうなんです。どうしますか?」
悠斗がカメラでその様子を撮影し、証拠を確保した。陽太はコーチが黒幕の一人だと確信した。

第3章:学校の過去

陽太たちは田中先生に報告した。田中先生は厳しい表情で言った。「コーチが関与してる可能性が高いわね。…高木校長も何か知ってるかもしれない。」
田中先生は10年前の不正隠蔽事件について語った。「当時の校長が野球部のドーピングを隠したけど、高木校長が医者として関わってた。医療ミスを隠すために、事件を揉み消したのよ。」
陽太たちは図書室で過去の新聞記事を探した。10年前の記事には、「野球部員がドーピングで失格、当時の校長が隠蔽」と書かれており、記事の端に「高木誠」の名前が。高木校長が医者時代に関与していた可能性が浮上した。
さらに、田中先生の紹介で当時の校長の知人(元教師)に話を聞いた。彼は言った。「高木先生が医者として関わってた。医療ミスを隠すために、事件を揉み消したんだ。」
陽太たちは監視カメラ映像を再度見直した。校舎裏のカメラは壊れていたが、別のカメラに藪田が転落する直前の映像が残っていた。映像には、藪田がコーチと口論し、その後高木校長が現れる瞬間が映っていた。校長がコーチに何か指示し、藪田が動揺してバランスを崩したように見えた。
「校長が現場にいた! コーチに指示して、藪田を追い詰めたんだ!」陽太は確信した。
陽太たちは高木校長に話を聞いた。「校長先生、10年前の事件、隠してますよね?」
校長は笑顔がこわばり、「…私は関係ないよ」と答えたが、陽太はその言葉に嘘を感じた。過去の訴訟記録を調べると、校長が隠蔽した患者の家族が田中先生の親族であることが判明。校長の動機が医療ミスの隠蔽にあると確信した。

第4章:裏切りの真相

陽太たちは告発手紙の主導者を突き止めるため、筆跡を再度見直した。田中先生に見せると、「この筆跡…高木校長のものよ」と驚くべき事実が判明。校長が手紙の主導者だったのだ。
陽太たちは校長室に忍び込み、隠蔽指示メモを見つけた。「コーチ、ドーピングの件は隠せ。高木」と書かれており、校長が10年前にコーチに隠蔽を指示していた証拠だった。
校長が現れ、「君たち、何してるんだ!?」と叫んだが、陽太はメモを見せて問い詰めた。「校長先生、手紙の筆跡があなたと一致します。なぜコーチを告発しようとしたんですか?」
校長は観念し、「…私が手紙を書かせた。コーチがドーピングを再び始めたから、正義のためだと思った。だが、藪田の転落は私の計画外だ」と自白した。
陽太たちはコーチにも話を聞いた。「校長があなたを告発しようと手紙を書かせました。転落の真相を教えてください。」
コーチは青ざめ、「…校長に指示されたんだ。藪田がドーピングをやめたいと言い出して、口論になった。校長が『始末しろ』と言ったから追い詰めたが…突き落としたのは俺じゃない」と認めた。

第5章:桜の木の下で

陽太たちは田中先生に報告した。田中先生はすべての証拠を確認し、「陽太、よくやったわ。全校集会で公表しましょう。私も協力する」と力強く言った。
全校集会が体育館で開催された。陽太はマイクを手に、証拠を一つずつ提示した。「高木校長とコーチは共犯です。10年前のドーピング隠蔽を指示し、藪田君の転落も校長の指示でコーチが追い詰めた結果です!」
校長は「医療ミスを隠すためだった」と頭を下げ、コーチも「校長の指示に従った」と認めた。生徒たちから拍手が起こり、田中先生は涙を流しながら言った。「陽太、ありがとう…。私の親族の無念が晴れたわ。」
陽太、悠斗、彩花は校庭の桜の木の下に立った。陽太が言った。「真実は傷つけることもあるけど、隠さなければ希望になる。」
悠斗が笑顔で頷いた。「陽太先輩みたいに、俺も頑張るよ!」
彩花が優しく言った。「一緒に頑張ったね。地域の希望を輝かせよう。」
新聞部の特集号は全校生徒に配られ、藪田は回復して改心した。陽太たちの友情はさらに深まり、青葉高校に新たな希望の光が差し込んだ。

エピローグ:希望の桜

事件から3か月後の7月、青葉高校の校庭は夏の陽光に輝いていた。桜の木々は鮮やかな緑に変わり、セミの声が響き渡る。佐藤陽太は新聞部の部室で、机に広げた特集号を眺めていた。あの全校集会で真相を公表した特集号は、今でも生徒たちに語り継がれている。
「陽太、そろそろ行こうぜ! 約束の時間だよ。」悠斗が部室のドアを開け、首に下げたカメラを手に笑顔を見せた。
「もうそんな時間か。彩花先輩、準備できてるかな?」陽太は特集号を手に立ち上がった。
校庭の桜の木の下で、山田彩花が待っていた。彼女はショートカットの髪を揺らし、穏やかな笑顔で2人を出迎えた。「遅いわよ、陽太、悠斗。みんな待ってるんだから。」
「ごめんごめん、特集号見てたら懐かしくなっちゃってさ。」陽太は照れ笑いを浮かべた。
桜の木の下には、新聞部のメンバーや野球部の生徒たち、そして田中真由美先生が集まっていた。全校集会で真相が明らかになって以来、校長とコーチは辞職し、青葉高校は新しい校長のもとで生まれ変わろうとしていた。田中先生は新校長の補佐役として、学校改革に尽力している。
「陽太君、悠斗君、彩花さん、よくやってくれたわ。」田中先生が柔らかな声で言った。「私の親族の無念が晴れただけじゃなく、学校全体が正しい方向に進むきっかけになった。本当にありがとう。」
「先生、俺たちも感謝してるんです。協力してくれて…。」陽太は少し照れながら頭をかいた。
野球部の生徒たちもやってきた。その中には、回復した藪田健司の姿もあった。彼は陽太たちに深く頭を下げた。「…俺、ドーピングに手を染めて、みんなに迷惑かけた。本当にごめん。陽太たちのおかげで、俺、やり直せるよ。」
「藪田、過去は変えられないけど、未来は変えられるさ。これから一緒に頑張ろうぜ。」陽太は笑顔で握手を交わした。
新聞部のメンバーたちと野球部員たちで、桜の木の下で小さなパーティーが始まった。笑い声が響き、夏の風が心地よく吹き抜ける。陽太は悠斗と彩花を振り返り、言った。
「俺たち、いいチームだったな。真実は傷つけることもあるけど、隠さなければ希望になるって…本当にそう思う。」
悠斗がカメラを手に笑った。「陽太先輩みたいに、俺ももっと頑張るよ。この瞬間、ちゃんと写真に残すからな!」
彩花が優しく言った。「一緒に頑張ったね。これからも、希望を輝かせていこう。」
陽太は桜の木を見上げた。緑の葉の間から差し込む陽光が、未来への希望を象徴しているようだった。青葉高校は新たな一歩を踏み出し、陽太たちの友情はこれからも続いていく――。
終わり

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