【1347号】BOY&BOYISH 4 外伝 《シンリン》誕生 令和080927
BOY&BOYISH 4 外伝
《シンリン》誕生
「二人だからできる表現を、もう一つ。」
山下慎一郎が県立東高校3年生として最後の学校生活を送っていた頃。
海老楽大学地域活動部では、新しい企画が静かに動き始めていました。
きっかけは、若葉良輔でした。
海老楽大学社会福祉学部へ進学した若葉は、東高校新聞部時代から記事制作やPCレイアウトを得意としていましたが、大学へ入ってから、その才能はさらに別の方向へ広がっていました。
企画書。
動画編集。
音楽と映像のタイミング調整。
ステージ構成。
AIを使ったビジュアルシミュレーション。
「誰を、どう見せれば、その人らしさが一番伝わるか」
若葉は、その感覚にかなり優れていました。
カイルがある日、若葉の企画書を見て言いました。
「若葉、プロデュース向いてるよ」
若葉。
「俺がですか?」
「うん。しかも俺とはタイプが違う」
彩花。
「カイルは全体を大胆に動かすけど、若葉君は本人を観察して組み立てるタイプね」
若葉は少し照れました。
AIから生まれた新しい振付実験
ちょうどその頃、カイルは新しいダンス制作方法を試していました。
人間が考えた振付だけではなく、
- 身体の軌道
- ターンの速度
- 二人の距離
- スカートの動き
- カメラ位置
- 音楽の拍
- 左右対称・非対称のフォーメーション
などをAIで大量にシミュレーションし、面白い動きを人間が選んで再構成する方法です。
AIに完成したダンスを任せるのではありません。
AIが、
「こう動いたらどう見える?」
という数百通りの案を出す。
そこからカイルが舞台として成立するものを選び、
本人たちが実際に動きながら修正する。
若葉は映像とデータを整理する。
そしてダンサー自身の感覚を最後に加える。
そんな、
AI × 振付 × 人間の身体感覚
の実験でした。
「この二人、相性いいかも」
ある日。
リンが練習室でターンを試していました。
そこへ取材に来ていた慎一郎が、興味深そうに見ています。
リン。
「慎一郎もやる?」
慎一郎。
「僕ですか?」
「前にダンスやったでしょ」
慎一郎は以前、リンとの体験取材で高いダンス適性を見せていました。
柔道で培った体幹。
反応速度。
動きを観察して再現する力。
そして意外なほど良いリズム感。
慎一郎が参加します。
リンが一回動く。
慎一郎が見る。
二回目。
合わせる。
三回目。
かなりそろう。
若葉がPC画面から顔を上げました。
「……これ」
カイル。
「気づいた?」
若葉。
「リン先輩と山下、身体の使い方は違うのに、タイミングが合いますね」
違うから、合う
リンは柔らかい。
曲線的。
ターンから次の動きへ流れる。
慎一郎は小柄で細身ながら、重心が安定している。
動きが簡潔。
止まるところでは、きれいに止まる。
リンが「流れ」なら、
慎一郎は「点」。
その二人が並ぶと、
互いの動きが引き立ちました。
カイル。
「陽太とリンとは、また違う組み合わせだな」
若葉。
「二人とも信頼関係がかなり強いのも大きいですね」
若葉の提案
数日後。
若葉が一枚の企画書を持ってきました。
タイトルは、
《シンリン》
リン。
「……森林?」
慎一郎。
「自然保護団体みたいですね」
若葉。
「違う」
表紙には、
シン = 慎一郎
リン = リン
とあります。
そして、
「兄弟のような信頼関係を、ダンスで表現する二人組」
と書かれていました。
慎一郎。
「僕とリン先輩で?」
若葉。
「うん」
分裂ではない
最初に慎一郎が気にしたのは、そこでした。
「でも、BOY&BOYISH 4からリン先輩が抜けるみたいに見えませんか?」
リンも同じでした。
「俺もそれは嫌だな」
するとカイルはすぐ答えます。
「抜けないよ」
陽太。
「俺もそう思う」
蓮。
「別ユニットじゃなくて、派生企画ですよね」
悠真。
「俺たちの中から組み合わせが増えるだけ」
彩花。
「BOY&BOYISH 4という本体があって、その中から生まれる小さな企画」
つまり、
分裂ではない。
BOY&BOYISH 4は続く。
リンも当然そこにいる。
そのうえで、
慎一郎とリンだから表現できる作品を作る。
悠真も納得
悠真はリンに憧れて地域活動部へ入った人物です。
だから若葉は一応確認しました。
「悠真君はどう思う?」
悠真。
「全然いいですよ」
「本当に?」
「リン先輩が誰と踊るかで、俺がリン先輩を尊敬してることは変わらないですから」
そして慎一郎へ、
「むしろ慎一郎君、負けませんよ」
慎一郎。
「何の勝負ですか」
悠真。
「ダンス」
慎一郎。
「競争なんですか?」
リン。
「しなくていいから」
全員笑いました。
もう一つの課題
スカート制服
若葉の企画書には、もう一つ重要な案がありました。
二人ともスカート制服スタイル。
慎一郎。
「僕も?」
若葉。
「嫌ならやらない」
慎一郎は少し考えました。
以前の体験取材で、一度スカート制服を着ています。
違和感より、
「普通に動きやすい」
という印象のほうが強く残っていました。
リン。
「無理しなくていいよ」
慎一郎。
「無理じゃないです」
少し笑って、
「リン先輩と二人なら、やってみたいです」
家族へ話す
ただし慎一郎は高校生です。
本人たちは、
家族へきちんと説明してから進める
ことにしました。
慎一郎は家で両親へ企画書を見せました。
「大学の地域活動部で、こういう企画があって」
父。
「ダンス?」
「うん」
母。
「リン君と?」
「そう」
そして慎一郎は、
スカート制服を着ることも説明しました。
両親は驚きました。
しかし慎一郎が、
「変わったことをして注目されたいわけじゃない」
「リン先輩との関係を表現するための衣裳」
「安全面も大学側とデザイナーが考えてくれている」
と丁寧に説明すると、
父親は言いました。
「慎一郎自身が納得しているならいい」
母も、
「嫌になったら途中でやめてもいいんだからね」
と言いました。
慎一郎。
「うん」
リンの家族
リンも家族へ話しました。
かつてリンのスカート姿を不思議に思っていた家族。
でも今では、
地域で活動するリンをずっと見てきました。
「また新しい衣裳?」
リン。
「今度は慎一郎と二人」
家族。
「慎一郎君って、あの新聞部の子?」
「うん」
「あなた、本当に弟ができたみたいね」
リンは少し照れました。
衣裳制作
衣裳はもちろん、
藤崎レオ
が担当しました。
BOY&BOYISHの制服衣裳を基礎にしながら、
シンリン専用にデザイン。
共通するのは、
ネイビーのショートジャケット。
白シャツ。
細いタイ。
プリーツスカート。
ただし二人は完全なお揃いではありません。
リンは少し流れるシルエット。
慎一郎は直線的で軽いシルエット。
藤崎。
「同じ服じゃなくて、同じ世界の服」
若葉。
「それです」
AI振付開発
若葉とカイルはAIを使い、
二人の動きを大量に試しました。
たとえば、
リンが時計回り。
慎一郎が反時計回り。
中央ですれ違う。
同時に振り返る。
一瞬だけ目が合う。
別方向へ進む。
また戻る。
AI上では数百通り。
しかし実際に踊ると、
「ここは無理」
「このターンは人間だと遅い」
「慎一郎の重心ならこっち」
「リンのスカートならこの角度がきれい」
と修正が入ります。
二人が振付を完成させる
最終的には、
AIでも、
若葉でも、
カイルでもありません。
リンと慎一郎自身
が仕上げました。
慎一郎。
「ここ、僕が先に止まった方がリン先輩のターンが目立ちません?」
リン。
「いいね」
慎一郎。
「そのあと僕が追いつく」
カイル。
「採用」
若葉。
「やっぱり本人たちが考えた部分が一番自然ですね」
シンリンのテーマ
シンリンのダンスは、
恋愛ではありません。
競争でもない。
兄弟のような友情。
傷ついた経験。
互いに話を聞くこと。
少し離れる。
また戻る。
支える。
支えられる。
それを動きで表現します。
曲名は、
『隣にいるから』
でした。
初披露
初ステージは、
海老楽大学と県立東高校の交流イベント。
慎一郎にとっては高校生活最後の時期です。
舞台袖。
慎一郎が少し緊張しています。
リン。
「大丈夫?」
慎一郎。
「ちょっとだけ」
リン。
「俺も」
「リン先輩でも?」
「当たり前」
二人は笑いました。
ステージへ
音楽。
リンが先に出ます。
少し遅れて慎一郎。
二人は離れた位置。
最初は互いを見ません。
曲が進む。
距離が縮まる。
すれ違う。
また離れる。
そして、
リンがターン。
慎一郎が静かに手を差し出す。
リンはその手を使って止まり、
今度は慎一郎の背中を押す。
慎一郎が前へ。
最後は二人並んで立ちます。
客席
陽太。
蓮。
悠真。
彩花。
カイル。
加代。
翔太。
若葉。
川野忠。
若野美佐子。
全員が見ていました。
悠真。
「……いいですね」
陽太。
「うん」
カイル。
「BOY&BOYISHとは違う」
若葉。
「だから作ったんです」
演目終了
音楽が止まります。
一瞬の静寂。
そして大きな拍手。
慎一郎は少し驚いてリンを見ました。
リン。
「成功」
慎一郎。
「はい」
二人は並んで頭を下げました。
《シンリン》正式始動
その後、
《シンリン》は、
BOY&BOYISH 4の派生ダンスプロジェクト
として正式に活動を始めました。
公演は限定的。
学業優先。
慎一郎が高校生である間は特に、
家族と学校の理解を最優先。
若葉がプロデュース。
カイルが演出。
藤崎レオが衣裳。
彩花が広報。
BOY&BOYISH 4が全面協力。
若葉の才能
そしてこの企画で、
もう一つはっきりしたことがありました。
若葉良輔は、
プロデュースがうまい。
自分が前へ出るのではなく、
相手の特徴を見つけ、
その人が一番良く見える場所を作る。
新聞部で、
文章と写真を整理していた能力。
PCレイアウト。
情報整理。
人間観察。
全部が、
舞台制作へつながっていました。
彩花。
「若葉君、完全に新しい才能開花したわね」
カイル。
「俺のライバル」
若葉。
「やめてください」
BOY&BOYISH 4へ逆輸入
さらに面白いことが起きました。
《シンリン》で開発した、
AIによるフォーメーションシミュレーション
が、
BOY&BOYISH 4にも取り入れられたのです。
陽太。
「これ、4人でも使えるな」
蓮。
「位置関係がかなり分かりやすいです」
悠真。
「ターンのぶつかりも事前に見られる」
リン。
「シンリンから本家に戻ってきた」
カイル。
「これが理想」
小さな派生企画が、
本体を強くする。
分かれるのではなく、増えていく
シンリンが誕生しても、
BOY&BOYISH 4は何も失いませんでした。
むしろ、
表現の種類が増えました。
BOY&BOYISH 4。
シンリン。
個人活動。
ドラマ。
スポーツ応援。
地域活動。
それぞれがつながっています。
リンと慎一郎
帰り道。
慎一郎。
「リン先輩」
「何?」
「本当に兄弟みたいですね」
リン。
「ステージまで一緒だもんね」
慎一郎。
「でも僕、弟なんですか」
リン。
「年齢的に」
慎一郎。
「そこだけですか」
リン。
「じゃあダンスで決める?」
慎一郎。
「勝ったら兄?」
「それは嫌」
「なんでですか」
二人は笑いながら歩きました。
《シンリン》は、
BOY&BOYISH 4から分かれたユニットではありません。
それは、
一つの大きな仲間の輪の中から生まれた、新しい表現。
AIが動きを提案し、
若葉が才能を引き出し、
カイルが舞台にし、
藤崎が衣裳を作り、
仲間が支え、
最後にリンと慎一郎が命を吹き込む。
そんな、
人と技術と信頼から生まれた、小さな兄弟ユニット
だったのでした。








