【1314号】BOY&BOYISH 4 「取材する側が、ランウェイに立った日」 令和080922

 


BOY&BOYISH 4

「取材する側が、ランウェイに立った日」

県立東高校新聞部の山下慎一郎が、海老楽大学地域活動部へ定期取材に来た日のことでした。

その日のテーマは、

「BOY&BOYISH 4の衣裳と身体表現」

いつものように慎一郎はノートを開き、リンへ質問していました。

「スカートの制服スタイルって、ダンスするときに動きにくくないんですか?」

リンは少し考えて答えます。

「慣れれば平気。でも、文章だけだと分かりにくいかも」

そして、いたずらっぽく笑いました。

「慎一郎、着てみる?」

慎一郎の手が止まりました。

「……僕がですか?」

「体験取材」

その言葉に、少し離れたところで聞いていた彩花が即座に反応します。

「それ、いいわね」

慎一郎。

「彩花先輩まで……」


体験取材開始

しばらくして、更衣スペースから慎一郎が出てきました。

海老楽大学の衣裳ではなく、東高校の制服デザインを参考にした体験用スタイル。

紺のブレザー。

白いシャツ。

ネクタイ。

そして、プリーツスカート。

慎一郎は鏡を見ながら、少し困ったように言います。

「思ったより普通ですね」

リン。

「でしょ?」

「もっと違和感があると思ってました」

「服って、着る前のイメージと着た後で結構変わるんだよ」

慎一郎はスカートの裾を少し確認しながら、

「取材記事に書けそうです」

と真面目に答えました。

リン。

「もう記事のこと考えてる」


ランウェイを歩いてみる

次は歩き方の体験。

地域活動部の練習室に簡単なランウェイラインが作られました。

リンが先に歩きます。

力を入れすぎず、自然な姿勢。

視線。

ターン。

そして戻ってくる。

「じゃあ慎一郎」

「はい」

慎一郎が歩き始めました。

最初は少し硬い。

しかし数歩進んだところで、動きが変わります。

背筋が伸びる。

歩幅が安定する。

重心がぶれない。

ターンも滑らか。

カイルが腕を組みます。

「……あれ?」

陽太。

「思ったよりうまいな」

蓮。

「初めてですよね?」

慎一郎は戻ってきて、

「柔道の移動とちょっと似てます」

と言いました。

リン。

「どこが?」

「重心を崩さないところです」

カイルの目が急に鋭くなりました。


「もう一回やって」

慎一郎はもう一度歩きます。

今度はリンと二人。

並んでスタート。

途中で左右へ分かれ、ターン。

中央で再び合流。

リンが慎一郎の動きを見ながら、

「慎一郎、相手の位置を見るのうまいね」

「柔道で相手の動きを見る癖があるからかもしれません」

二人のタイミングが自然にそろいます。

彩花は写真を撮りながら、

「これ、普通に絵になるわね」

慎一郎。

「記事用ですか?」

彩花。

「記録用」

リン。

「ちょっと怪しい」


次はダンス

ここでカイルが言いました。

「歩けるなら、簡単な振付やってみない?」

慎一郎。

「ダンスですか?」

「八カウントだけ」

慎一郎は少し不安そうでしたが、リンの動きを見ながら練習を始めます。

ステップ。

ターン。

腕の振り。

軽いジャンプ。

最初の一回は少し遅れました。

二回目。

かなり合う。

三回目。

ほぼリンと同時。

悠真が思わず、

「覚えるの早っ」

と声を上げました。


スポーツ経験が全部つながる

カイルは振付を少しずつ難しくしました。

横移動。

方向転換。

しゃがんでからの立ち上がり。

ジャンプ。

着地。

慎一郎は、どれも安定しています。

陽太が言いました。

「体幹強いな」

慎一郎。

「柔道やってたので」

陽太。

「それだけじゃないと思う」

試しにボールを渡してみると、投げ方もきれい。

軽く走らせるとフォームも安定。

簡単なバスケットボールのドリブルもすぐ適応。

サッカーボールを渡せば、最初は戸惑いながらも身体の使い方を短時間で理解します。

蓮。

「山下君、スポーツ全般いけるタイプですね」

慎一郎本人が一番驚いていました。

「僕、そんなふうに思ったことなかったです」

リン。

「できることって、自分では気づかないことあるよ」


ダンスアクション

そこでリンが、

「じゃあ、BOY&BOYISHっぽい動きもやってみよう」

と言いました。

通常のダンスより少しアクション性のある振付。

大きく踏み込む。

振り返る。

低い姿勢から一気に立つ。

相手と位置を入れ替える。

軽く跳んで着地。

慎一郎は一度動きを見ただけで、

「もう一回お願いします」

と言います。

二回目。

リンとほぼ同時。

三回目。

二人の動きがきれいにそろいました。

陽太。

「慎一郎、反応速度いいな」

リン。

「しかも動きを真似するだけじゃなくて、自分で補正してる」

カイル。

「身体感覚がかなりいい」

慎一郎は照れながら、

「柔道のおかげですかね」

と言いました。


さらに意外な発見

休憩中。

練習室ではBOY&BOYISH 4の楽曲が流れていました。

慎一郎が何気なく指で机を叩いています。

一定のリズム。

カイルが気づきます。

「慎一郎、拍取れる?」

「はい?」

「今の曲、何拍子?」

慎一郎は少し聞いて、

「4拍子ですよね」

「じゃあ、裏拍分かる?」

慎一郎は手拍子で示しました。

正確でした。


「歌ってみる?」

悠真。

「山下君、歌もいけるんじゃないですか?」

慎一郎。

「いや、それは……」

リン。

「ちょっとだけ」

伴奏が流れます。

慎一郎は最初、小さな声で歌いました。

しかし音程は安定。

高い音も無理に張り上げない。

低い音もきれい。

彩花がカメラを下ろしました。

「普通に上手い」

慎一郎。

「そんなことないです」

リン。

「いや、ある」


音楽センス

カイルはさらに簡単なメロディーをピアノで弾きました。

「これ、続きどうなると思う?」

慎一郎は少し考えて、

鼻歌で続きを歌います。

カイルが驚きます。

「そこ選ぶんだ」

「変でした?」

「逆。自然」

次にリズムパターンを変える。

慎一郎はすぐ合わせる。

リンがハモると、その音を聞いて自分の音程を少し変えました。

カイル。

「慎一郎、音感かなりいいよ」

慎一郎。

「初めて言われました」


取材が完全に逆転

気がつけば、

慎一郎は取材する側ではなく、

完全に取材される側になっていました。

彩花。

「山下慎一郎、意外な才能発見」

慎一郎。

「記事にしないでください」

忠。

「これは撮るしかないだろ」

美佐子。

「慎一郎、すごいじゃない」

慎一郎。

「二人まで……」

リンは笑いながら、

「今日の体験取材、大成功だね」

と言いました。


慎一郎自身が知らなかった自分

練習後。

慎一郎は鏡の前に立っていました。

制服風のスカート。

汗をかいた髪。

少し息を切らしている自分。

そこには、普段の新聞部員とは少し違う姿がありました。

リンが横へ来ます。

「どうだった?」

慎一郎。

「面白かったです」

少し間を置いて、

「それに、自分にこんなことができると思ってませんでした」

リン。

「俺も最初そうだったよ」

慎一郎がリンを見る。

リンは続けます。

「やってみないと分からないこと、結構あるから」


親友として

慎一郎。

「リン先輩」

「ん?」

「今度、取材じゃなくてダンス教えてください」

リンは笑いました。

「もちろん」

「でも厳しい?」

「結構厳しいよ」

「大丈夫です」

そこへ陽太が来ます。

「慎一郎、次は俺とジャンプ練習な」

慎一郎。

「え?」

蓮。

「その次は球技」

悠真。

「歌もやりましょう」

慎一郎。

「話が大きくなってません?」

カイル。

「地域活動部ではよくある」


新しく見つかった慎一郎

この日の体験取材で発見されたのは、

柔道経験による強い体幹。

スポーツ全般への高い適応力。

動きを短時間で覚えるダンスセンス。

安定したリズム感。

自然な音程感覚。

そして、

人の動きをよく観察して合わせる能力。

それは新聞取材にも共通していました。

慎一郎は、人を見る。

よく聞く。

相手の動きを読む。

そして、自分を合わせる。

リンが最後に言いました。

「慎一郎って、新聞もスポーツもダンスも、根っこは同じなのかもね」

慎一郎。

「根っこ?」

「人をよく見ること」

慎一郎は少し考えて、

笑いました。


こうして山下慎一郎の「体験取材」は、

リンの衣裳とダンスを知るための取材から、
慎一郎自身の知らなかった才能を発見する一日

へと変わりました。

そしてリンにとっても、

いじめという似た過去を語り合った親友が、

今度は隣で同じ音楽に合わせて踊る。

それは少し不思議で、

とても嬉しい光景になったのでした。

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