【1316号】BOY&BOYISH 4 「その人選、すごいな」 令和080922
BOY&BOYISH 4
「その人選、すごいな」
ある日の海老楽大学地域活動部。
東高校新聞部の山下慎一郎、川野忠、若野美佐子が取材を終え、帰ったあとのことでした。
部室には、少しだけ静かな余韻が残っていました。
リンは机の上に置かれた東高新聞を手に取り、慎一郎の記事をもう一度読み返していました。
しばらくして、竹本翔太と沢村加代のほうを見ます。
「ねえ」
翔太。
「はい?」
リン。
「慎一郎を、1年生で新聞部長に抜擢したのって、二人なんだよね」
加代はうなずきました。
「最終的に推したのは私たちです」
翔太も、
「かなり早い段階から、次の中心になれると思ってました」
と答えます。
リンは少し驚いたように笑いました。
「それ、すごい人選だよ」
1年生で部長
悠真が目を丸くします。
「1年生で部長って、普通にすごくないですか?」
蓮。
「上級生もいるのに?」
加代。
「もちろん、年上だからという理由だけで外したわけじゃないです」
翔太。
「むしろ、慎一郎自身が一番びっくりしてました」
陽太。
「本人はやりたいって言ってたの?」
加代は首を振ります。
「最初は、むしろ自分より先輩がやるべきだと思ってました」
リン。
「慎一郎らしいな」
なぜ慎一郎だったのか
カイルが興味を持って身を乗り出します。
「何を見て決めたの?」
加代は少し考えてから答えました。
「記事の上手さだけじゃありません」
まず、
人の話を最後まで聞くこと。
自分の意見だけを押しつけないこと。
失敗したら謝れること。
年上にも年下にも態度を変えないこと。
そして、
自分が目立つより、部員全体を見ていること。
翔太も続けます。
「慎一郎って、誰かが困っているときに気づくんです」
「でも、すぐ前へ出て仕切ろうとはしない」
「必要なところだけ手を出す」
彩花。
「それ、リーダー向きね」
リンは納得した
リンは静かにうなずきました。
「分かる」
悠真。
「そんなにですか?」
リン。
「うん」
「慎一郎って、人の話を聞くとき、ちゃんと相手を見てるんだよ」
「自分が何を言うかより、相手が何を言いたいかを先に考える」
その言葉に、陽太もうなずきました。
「確かに」
蓮。
「取材のときもそうですね」
彩花。
「質問がうまいというより、待てるのよね」
リンが知っている慎一郎
リンは慎一郎と個人的に話したことを思い出していました。
いじめの経験。
誰にも言えなかった苦しさ。
幼なじみに救われたこと。
そして、
「みんなのおかげで自分がいる」
という慎一郎の言葉。
リン。
「あいつ、人に助けられた経験があるから、人を雑に扱わないんだよ」
部室が少し静かになります。
陽太。
「それは大きいな」
リン。
「だから、部長になったから偉くなるタイプじゃないと思う」
「むしろ、部長になったから余計に周りを見るタイプ」
翔太は笑いました。
「まさにそれです」
加代の決断
彩花が加代へ聞きます。
「でも、1年生を部長にするのって反対なかった?」
加代。
「ありましたよ」
「やっぱり」
「経験が足りないって」
「上級生を飛ばすのはどうなんだって」
加代はシステム手帳を閉じます。
「でも、部長って一番経験が長い人がやる役じゃないと思ったんです」
カイル。
「じゃあ何?」
加代。
「みんなが安心してついていける人です」
その言葉に、カイルは少し黙りました。
翔太も同じだった
翔太も続けます。
「俺も最初は、慎一郎には早いかなと思いました」
「でも取材を重ねてると、部員が自然に慎一郎へ相談するようになってたんです」
リン。
「もう実質、中心だった?」
「はい」
「だったら役職を後からつけただけか」
翔太。
「そんな感じです」
他の部員も納得する
陽太。
「それなら納得だな」
蓮。
「年齢より、周囲から信頼されてるかですね」
悠真。
「慎一郎君なら、確かに威張る姿が想像できない」
彩花。
「それはそれで、ちゃんと部長らしく怒れるか心配だけど」
加代。
「必要なときは言えます」
翔太。
「静かにですけど」
リン。
「一番効くやつだ」
全員が笑いました。
カイルの評価
カイルはホワイトボードへ、
山下慎一郎
と書きました。
その下に、
- 傾聴
- 観察
- 調整
- 信頼
- 謙虚
- 行動
と並べます。
「なるほど」
リン。
「何してるの?」
カイル。
「リーダーの条件」
彩花。
「また分析始めた」
カイル。
「でもこれ、地域活動部にも必要だよ」
陽太。
「確かに」
リンから二人へ
リンは改めて翔太と加代を見ました。
「慎一郎を選んだ二人もすごいと思う」
加代。
「え?」
「本人が優秀でも、周りが見つけなかったら埋もれることあるじゃん」
翔太。
「まあ……」
「ちゃんと見て、任せたんでしょ」
加代は少し照れました。
「本人が期待に応えてくれただけです」
リン。
「それも含めて、人選が良かったってこと」
彩花も納得
彩花は言いました。
「加代って、今も同じことしてるわよね」
「何がです?」
「人を見ること」
翔太にも視線を向けます。
「竹本君も」
「地域活動部で誰が何に向いてるか、すぐ気づく」
カイル。
「なるほど」
「高校新聞部で部長と副部長だった二人が強い理由、そこか」
役職より先に、信頼があった
リンは東高新聞を閉じました。
そして、
「慎一郎が部長になったんじゃなくて、部長になる前から部長みたいな役割をしてたんだね」
翔太。
「そうですね」
加代。
「だから任せました」
陽太。
「一番自然な形だな」
その日、地域活動部の全員が納得しました。
山下慎一郎が1年生で新聞部長に抜擢されたのは、
成績が良かったからでも、
文章が一番上手かったからでも、
声が大きかったからでもありません。
人を見て、話を聞き、仲間を大切にし、必要なときには行動できる。
その積み重ねが、
周囲からの信頼になっていたからでした。
リンは最後に笑って言いました。
「慎一郎なら、いい部長になるよ」
翔太。
「もう、なってますよ」
加代。
「かなり」
リン。
「じゃあ今度、本人に言おう」
悠真。
「絶対照れますね」
彩花。
「それも取材したい」
全員が笑いました。
そしてまた一つ、
山下慎一郎という人物を選んだ竹本翔太と沢村加代の見る目
も、地域活動部の中で高く評価されることになったのでした。

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