【1315号】BOY&BOYISH 4 「この二人、相当できる」 令和080922
BOY&BOYISH 4
「この二人、相当できる」
竹本翔太と沢村加代が海老楽大学地域活動部へ入って、まだそれほど日は経っていませんでした。
けれど、彩花とカイルは早くも二人の存在感に気づき始めていました。
最初のきっかけは、地域活動部の活動記録でした。
彩花が何気なく、
「先月の商店街イベント、写真と記事がちょっと散らかってるのよね」
と口にすると、翔太が静かに言いました。
「活動日、担当、取材対象、写真番号、記事原稿を一つの一覧にまとめれば、あとで探しやすくなりますよ」
彩花。
「できる?」
「はい」
その日の夕方。
翔太が作った整理表を見て、彩花はしばらく黙りました。
写真番号。
撮影者。
使用許可。
記事タイトル。
取材対象。
公開済みか未公開か。
再利用可能か。
すべてが一目で分かるようになっています。
彩花。
「……これ、私が欲しかったやつそのものなんだけど」
翔太は少し困ったように笑いました。
「新聞部で似たことをやっていたので」
加代は「全体」が見えていた
一方、加代。
彼女はシステム手帳を片手に、次の地域イベントの打ち合わせへ参加していました。
カイルがホワイトボードへ予定を書きます。
「午前10時から商店街ステージ。12時に移動して、13時から小学校。それが終わったら15時に大学へ戻って」
加代が手を挙げました。
「カイル先輩」
「何?」
「それ、昼食時間ありません」
部室が静かになります。
カイル。
「……移動中に」
「出演者だけなら可能です。でも機材担当と広報担当は食べられません」
彩花が思わず笑います。
「私、また昼抜きになるところだった」
加代は続けます。
「それと、小学校から大学まで移動時間を20分で見ていますけど、搬出を入れると最低35分必要です」
カイル。
「そこまで見た?」
「はい」
「いつ?」
「説明を聞きながら」
カイルはホワイトボードを見つめました。
そして一言。
「この子、怖いくらい優秀だな」
加代。
「褒め言葉として受け取っておきます」
翔太の観察力
ある日、BOY&BOYISH 4の練習を翔太が見ていました。
リンと悠真がターン。
陽太と蓮が位置を入れ替える。
曲が終わると、翔太が言います。
「二番のサビ、少しだけ隊形が右に寄ってました」
カイル。
「え?」
「たぶん、悠真君の移動が半歩大きいです」
悠真。
「ほんとですか?」
もう一度映像を確認します。
本当に、わずかに右へ寄っていました。
カイル。
「翔太、ダンス経験ある?」
「ないです」
「じゃあ、なんで分かるの」
翔太は少し考えて、
「紙面レイアウトと同じに見えたので」
全員。
「紙面?」
「バランスです。写真や文字が少し偏ると気になるので」
カイルは腕を組みました。
「その感覚、舞台演出でも使えるぞ」
加代の質問力
別の日。
加代はEBIRAKUブランドの取材打ち合わせへ参加していました。
メーカー担当者が、
「若者向けの新商品を増やしたい」
と説明します。
加代はすぐに質問しました。
「若者というのは、何歳から何歳くらいですか?」
担当者。
「高校生から大学生くらいかな」
「今の購入者の年齢分布は?」
「それは……」
「高校生が買わない理由は価格ですか。デザインですか。それとも販売場所ですか?」
担当者は少し考え込みました。
会議が終わったあと、彩花が言います。
「加代、あれ全部その場で考えたの?」
「はい」
「すごいわね」
加代。
「新聞部では、曖昧な言葉をそのまま記事にするとあとで困るので」
彩花は少し笑って、
「私、あなたと仕事すると楽になりそう」
と言いました。
二人を組ませると、さらに強い
そしてある日。
彩花とカイルは試しに、二人だけへ小さな企画を任せました。
テーマは、
「商店街の若者利用を増やすには」
期限は一週間。
カイルは、
「簡単な企画書でいいよ」
と言いました。
ところが一週間後。
加代と翔太が持ってきたものは、簡単どころではありませんでした。
現地聞き取り。
高校生へのアンケート。
大学生へのアンケート。
商店主へのインタビュー。
時間帯別の通行量。
SNS投稿案。
イベント案。
必要経費。
協力先候補。
しかも最後には、
「まず小規模実証を行い、効果を確認してから拡大する」
と書いてあります。
彩花。
「……これ、授業のレポートじゃないわよね?」
翔太。
「地域活動部の企画です」
カイルはページを何度もめくりました。
「二人とも、大学一年生だよね?」
加代。
「そうですけど」
「本当に?」
「学生証見ます?」
彩花とカイルの作戦会議
その日の夜。
二人が帰ったあと。
部室には彩花とカイルだけが残っていました。
彩花。
「どう思う?」
カイル。
「相当だね」
「でしょ」
「翔太は、静かだけど観察力が異常に高い」
彩花。
「加代は全体を見る力がすごい。しかも判断が速い」
カイル。
「この二人、補完関係になってる」
翔太は細部を見る。
加代は全体を見る。
翔太は記録を整理する。
加代は企画を前へ進める。
翔太が慎重に確認し、
加代が決断する。
彩花。
「高校新聞部で部長と副部長やってただけあるわね」
カイル。
「いや、それだけじゃない」
「何?」
「素材がいい。経験をそのまま大学の活動へ持ってきてる」
BOY&BOYISH 4も気づき始める
陽太も言いました。
「最近、打ち合わせ早く終わるようになったな」
蓮。
「加代さんが予定を整理して、翔太君が資料をまとめてくれるので」
悠真。
「俺、提出物忘れられなくなりました」
加代。
「忘れたら連絡しますから」
悠真。
「やっぱり怖い」
リンは笑いました。
「でも助かってるでしょ」
「めちゃくちゃ助かってます」
彩花のちょっとした危機感
ある日。
翔太が書いたイベント記事を彩花が読みました。
無駄がない。
住民の言葉が生きている。
活動部を必要以上に美化していない。
問題点もきちんと書いてある。
読み終えた彩花は、
「……うまい」
とつぶやきました。
翔太。
「何か直した方がいいですか?」
「ない」
「え?」
「悔しいけど、ない」
翔太。
「悔しいんですか?」
彩花。
「広報担当として少しね」
でも顔は笑っていました。
カイルも負けていられない
加代が作ったイベント進行表を見たカイルも、
「俺のより見やすい」
と認めざるを得ませんでした。
加代。
「カイル先輩のは発想は面白いんですけど」
「けど?」
「予定に人間の生活が入ってません」
「人間の生活?」
「食事と休憩です」
彩花が吹き出します。
「そこ重要」
カイル。
「ぐうの音も出ない」
二人の才能の正体
彩花とカイルは、しばらくして気づきました。
二人のすごさは、
単に文章がうまいとか、
予定管理がうまいとか、
頭の回転が速いとか、
そういうことだけではありません。
二人とも、
人をよく見ている。
翔太は、
誰が何をしているか。
誰が困っているか。
どこに情報が足りないか。
加代は、
誰と誰をつなげれば動くか。
どこで予定が詰まるか。
何を先に決めればいいか。
それを自然に見ています。
彩花の結論
彩花は二人へ言いました。
「あなたたち、広報班だけに置いておくの、もったいないわ」
翔太。
「え?」
加代。
「どういう意味ですか?」
彩花。
「企画、記録、取材、地域調整。全部やってもらう」
翔太。
「仕事増えてません?」
「増えてる」
加代。
「まあ、そうなると思ってました」
カイルの一言
カイルも続けました。
「今まで地域活動部は、俺と彩花がかなり中心になって企画してきた」
「でも、これからは違うかもしれない」
二人を見る。
「海老楽大学地域活動部の次の世代を作れる人材が入ってきた」
翔太と加代は顔を見合わせました。
翔太。
「そこまで言われると緊張します」
加代。
「でも、やってみたいです」
先輩たちが驚く後輩
少し離れたところで、リンが陽太へ言いました。
「俺たちが入った頃、こんなにできた?」
陽太。
「絶対できてない」
悠真。
「俺なんかもっとできてないです」
蓮。
「自信満々に言わないで」
部室に笑い声が広がります。
そして彩花は、新しい活動記録のページに、
竹本翔太
沢村加代
という名前を書き込みました。
その横に小さく、
「期待以上」
と記します。
カイルが覗き込み、
その横へさらに、
「かなり」
と書き足しました。
彩花。
「勝手に書かないで」
カイル。
「事実だろ」
二人は笑いました。
県立東高校新聞部からやって来た二人の新入生。
その才能は、
まだ入口しか見えていませんでした。
海老楽大学地域活動部には、また新しい歯車が加わったのです。
しかもその歯車は、
思っていたより、ずっと高性能でした。





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