【1287号】BOY&BOYISH設定~蓮と悠真の過去 令和080919



蓮と悠真の過去

「罪滅ぼし」から「この街が好きだから」へ

海老楽大学地域活動部に入ってしばらくしたころ。

高橋蓮と水野悠真には、陽太とリンにまだ話していないことがありました。

二人がBOY&BOYISHに憧れて入部したことは本当です。

でも、それだけではありません。

地域活動に熱心なのにも、挨拶や礼儀を人一倍大切にするのにも、理由がありました。

ある日の夕方。

地域イベントから戻った四人が部室で片付けをしていると、蓮が陽太とリンに声をかけました。

「先輩。ちょっと話したいことがあります」

悠真も、その隣でいつになく静かです。

陽太は椅子を引きました。

「いいよ」

リンも、

「どうしたの?」

と向き直りました。


高校時代の二人

蓮と悠真は高校時代、かなりやんちゃでした。

当時は普通の高校生らしい私服や男子向けの制服姿で、放課後になると仲間と商店街へ出かけていました。

店の前で長時間たむろする。

大声で騒ぐ。

狭い道を自転車で走る。

祭りの準備をしている大人をからかう。

注意されても、

「別にいいじゃん」

と笑っていた。

重大な事件を起こしたわけではありません。

でも、地域の人に迷惑をかけていたことは間違いありませんでした。

蓮は俯きながら言います。

「注意してくれた店の人に、面倒くさいって言ったこともあります」

悠真も続けました。

「俺たちが帰ったあと、ゴミを片付けてくれてた人もいたと思います」

二人にとって当時は「ただの悪ふざけ」。

でも今なら、それがどれほど幼かったか分かります。


悠真には、もう一つあった

悠真は少し迷ったあと、リンのほうを見ました。

「あと……俺、リン先輩にはもう一つ謝らないといけないことがあります」

リン。

「俺?」

悠真はうなずきます。

高校時代、地域イベントでBOY&BOYISHを遠くから見たことがありました。

陽太と並び、プリーツスカート姿で踊るリン。

当時の悠真には、それが理解できませんでした。

友達と一緒になって、

「男なのにスカートとか変じゃない?」

と笑った。

さらに、

「女装の変態みたいだ」

とまで言ったことがありました。

悠真は目を伏せます。

「ちゃんと知りもしないで、見た目だけで馬鹿にしてました」

リンは驚きながらも、黙って続きを待ちました。


YouTubeで見た「海老楽さんぽ」

二人が変わるきっかけになったのは、高校卒業が近づいたころでした。

悠真が偶然、YouTubeで海老楽テレビのバックナンバーを見つけます。

「BOY&BOYISHの海老楽さんぽ 商店街編」

画面の中では、陽太とリンが商店街を歩いていました。

派手なステージではありません。

八百屋で話を聞く。

魚屋で商品を紹介する。

昔からある食堂で店主と笑う。

子どもに手を振る。

高齢者の話を丁寧に聞く。

リンはいつものスカート姿でした。

でも誰もそこだけを特別扱いしていません。

店の人は、

「リンくん、また来たね」

と普通に話しかけます。

悠真は、そこに強い違和感を覚えました。

自分の中にあった偏見と、画面の中の現実がまったく噛み合わなかったからです。


見覚えのある店主

さらに動画には、高校時代に蓮と悠真が迷惑をかけていた店も登場しました。

店主は陽太とリンに笑顔で、

「若い人がこうやって来てくれるとうれしいよ」

と話していました。

その言葉に、悠真は黙ります。

蓮にも動画を送ります。

最初は蓮も、

「長いな」

と言いながら見始めました。

でも最後まで見るころには、二人とも無言になっていました。

悠真。

「俺たち、何やってたんだろうな」

蓮。

「同じくらいの年なのに、全然違うな」

陽太とリンは、地域から何かをもらうだけではありませんでした。

自分たちの時間や力を、地域へ返していた。

その姿が二人には刺さりました。


悠真の偏見も崩れた

悠真にとって、もう一つ大きかったのはリンでした。

以前はスカート姿だけを見て笑っていた。

でも動画を見ると、リンは誰より自然に地域の人と接しています。

服装ではなく、人柄で信頼されている。

地域の人にとっては、

「スカートを履いた男」

ではなく、

「リン」

でした。

悠真は自分がどれほど表面しか見ていなかったのか思い知らされます。

「俺、動画見てたら、自分のほうが恥ずかしくなりました」

リンが静かに聞きます。

「先輩は好きな格好で堂々としてて、地域の人にもちゃんと向き合ってる。
それなのに俺は普通の格好で、地域に迷惑かけてた」

そこで初めて、悠真はリンを「変わった人」ではなく、

自分よりずっと大人に見える人

として見るようになりました。


海老楽大学を選んだ理由

二人が海老楽大学を志望するようになったのは、それからです。

蓮は陽太に憧れました。

派手にしゃべらなくても、必要なときは前へ出る。

地域の人に対しても自然で丁寧。

悠真はリンに憧れました。

スカート姿だからではありません。

自分らしい格好のまま、人の役に立っている姿

に惹かれました。

そして二人には共通した思いがありました。

「今度は迷惑をかける側じゃなく、役に立つ側になりたい」

地域活動部への入部には、少なからず罪滅ぼしの意味がありました。


先輩たちへの告白

そこまで話し終えた蓮と悠真は、深く頭を下げました。

「今まで言わなくてすみませんでした」

陽太は二人を責めませんでした。

少し考えてから、

「迷惑かけたと思うなら、これから地域の人を大事にすればいい」

と言いました。

蓮が顔を上げます。

「それだけでいいんですか?」

陽太。

「それを続けるのが、一番難しいから」

そしてリンは悠真に向かって言いました。

「正直、昔そう言われてたって聞くと、ちょっとムカつく」

悠真。

「……はい」

でもリンは続けます。

「でも、今の悠真がそう思ってないなら、それでいいよ」

悠真が顔を上げました。

「昔やったことは消えない。
でも、今ちゃんとやってることまで嘘になるわけじゃない」

さらに、

「罪滅ぼしだけで活動しなくていいと思う」

と言いました。


「憧れてる」は嘘じゃない

悠真は、どうしても確認しておきたいことがありました。

「でも、リン先輩に憧れてここに来たっていうのは、本当です」

リン。

「分かってるよ」

悠真。

「スカートがすごいと思ったんじゃなくて、先輩が堂々としてたことがすごかったんです」

そして、自分の今のプリーツスカートを見ました。

「高校のころの俺が今の俺を見たら、たぶん馬鹿にすると思います」

リンが笑いました。

「それはありそう」

悠真も笑います。

「でも、俺は今の自分のほうが好きです」

その言葉に、リンもうなずきました。

「だったら、それでいい」


商店街へ戻る

数週間後。

海老楽テレビのロケで、四人は例の商店街を訪れました。

高校時代に蓮と悠真がよくたむろしていた場所です。

そして、何度も注意してくれた店主。

店主は二人を見ると、

「あれ、どっかで見た顔だな」

と首を傾げました。

二人は顔を見合わせます。

今回は逃げません。

蓮と悠真は並んで、深く頭を下げました。

「高校のころ、店の前で騒いでいた者です。
あのときは本当にすみませんでした」

店主はしばらく二人を見たあと、

「ああ、あの二人か」

と笑いました。

そして、

「今は立派にやってるじゃない」

と一言。

それだけでした。

でも二人には、その一言で十分でした。


彩花とカイルも知る

事情を聞いた彩花は、

「だから二人、入部したころから地域の人への挨拶が異様に丁寧だったんだ」

と納得します。

カイルも、

「過去を隠す必要はないよ。
今どうするかのほうが大事だから」

と答えました。

ただしカイルは、

「地域活動を自分への罰にはしないこと」

とも付け加えました。

彩花も、

「誰かに感謝されることまで『罪滅ぼしだから』で小さくしなくていいよ」

と言います。


罪滅ぼしから、恩返しへ

入部したばかりのころ。

蓮と悠真にとって地域活動は、

昔の自分たちへの償い

でした。

でも活動を続けるうちに変わります。

商店街の人から、

「蓮くん」

「悠真くん」

と名前で呼ばれる。

子どもが二人を見つけて駆け寄ってくる。

高齢者から、

「また来てね」

と言われる。

やがて二人の中から、

「迷惑をかけた分を返さなきゃ」

という気持ちは少しずつ薄れていきました。

代わりに生まれたのは、

「この街が好きだから、何かしたい」

という気持ち。

罪滅ぼしから恩返しへ。

恩返しから、地域への愛着へ。

そして悠真にとってリンは、

かつて遠くから馬鹿にしていた存在から、

自分の偏見を壊し、新しい自分になるきっかけをくれた先輩

へと変わりました。

蓮と悠真の地域活動は、過去を消すためのものではありません。

過去を忘れず、それでも今の行動を積み重ねていく。

それが二人のBOY&BOYISH 4での、新しい出発になったのでした。

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